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自転車で37カ国3万キロ 「定年後の夢」完走
長年勤めた会社で定年退職が近づくと、こう悩む人も少なくない。「定年後は何をしよう?」。藤沢市白旗2丁目の高島実さん(62)が選んだのは「自分だけの夢」、自転車で世界を回ることだった。退職から2年。ユーラシア大陸、東欧・中欧、そして憧れの南米を走り抜け、この2月16日に帰国した。走行距離は約2万9400キロにのぼる。
日本IBMに42年間勤めた高島さんは「定年後にはユーラシア大陸を自転車で横断しよう」と、57歳から本格的に自転車を始めた。
「2年間は好きにさせて欲しい」と家族に頼み、2013年1月の退職翌日に出発。東南アジア、中国、中央アジアと計26カ国、約1万9700キロを走り、12月に帰国した。
昨年5月からは東欧・中欧の旅に。ルーマニアから北上し、ハンガリー、ポーランドなどの約3900キロを走った。旅はこれでやめるつもりだったが、終わりが近づくにつれ「次は憧れの南米に」と決めた。8月末に一時帰国、9月末には南米アンデス山脈「縦断」を目指しペルーのリマに旅立った。
序盤、いきなり標高3千メートル級の高地に上がる坂道となり、バスで移動したが、高山病に苦しんだ。調子を取り戻したものの、今度は体調を崩し、何も食べない日もあった。ボリビアのウユニでは一面、塩の塊が石畳のように広がる「塩湖」に出くわした。なめると確かに塩の味がした。
チリとアルゼンチンにまたがるパタゴニア地域に入ると、低い気温と雨に悩まされた。風が強まり、やがて荒涼とした景色に。「ゴールできるか」と不安になったが、2月6日午後、南端の町ウシュアイアの「世界の果て」と書かれた標識前に到着。約5800キロを走り終えた。
「達成感というより、終わっちゃった、という感じ。南米の広大な自然のすばらしさに圧倒された」。3度の旅で計37カ国を訪れ、かかった費用は約500万円だった。
自転車の旅はこれで一区切り。次は、旅の途中に大量にスケッチした風景画の個展を年内に開きたいという。
その高島さんに、定年退職間近な人へのアドバイスを尋ねると、こう答えた。「定年後にやりたい夢を持つこと。定年は夢を実現するための始まり、と考えてみては、どうでしょう」